感想 | 前作、『13歳の沈黙』で主人公のひとりコナーと14歳年の離れた「半分だけの姉」として登場するマーガレットが12歳の時の物語。 サマーキャンプで陰湿ないじめの対象とされたマーガレットのもとに、ハンガリー系のふたりのおじのひとりアレックスおじさんがやってきて無事、マーガレットを連れ出すところから物語ははじまる。キャンプのいじめの実態にフィードバックしつつ、『ティーパーティーの謎』『13歳の沈黙』の舞台ともなっているニューヨーク州の架空の都市エピファニーに住むモリスおじさんとアレックスおじさんが彼らの家の庭に45年前から造り続けている塔の命運を語る語り口はテンポよく明快。 ハンガリー系アメリカ人としてのカニグズバーグの経験を色濃く反映したであろうふたりのおじさんたちの暮らしぶりの魅力的なこと。サマーキャンプの主宰カプラン先生の息子ジェイク、巨大ショピングモールが現れ、おじさんたちの住むオールドタウンがすっかりさびれる前の住人で小さい頃塔に登ったり、塔にクリスマスの飾りをつけたりしたことのある美術研究所長ピーターやおじさんたちの隣人ペヴィラクアさんの娘ロレッタといった面々が後半、取り壊されようとする塔を守ろうとするマーガレットと共に行動する。 塔を「アウトサイダー・アート」(専門教育を受けていない人々のつくった美術作品の傑作)と位置づけ、価値あるものを守るよう働きかけるピーター、通信網の会社の重鎮という地位を巧みに利用して塔の移転に力を貸すロレッタ、塔そのものの持っている魅力を本質的なところで感じとっているジェイク。マーガレットがほのかに寄せるジェイクへの想いも瑞々しく描写される。 公序良俗を楯にするのみでマーガレットの置かれた場所へのアプローチのてだてを
持てないでいるジェイクの母親カプラン先生をも、こちら側の論理に敵対するのみの悪人としてのみ描かないあたりに「カニグズバーグ、なまなかではないな」と思う。 何かに問題を感じた時、自らが置かれた位置でできる何か、をその場所から問うていくことによって得られた経験は、人が他の人々を慮っていく度量となっていく。その度量を豊かに持った大人たちが、カニグズバーグの多くの作品で子どもたちの傍らにいる魅力的な大人たちとして登場する。
この物語から15年後のマーガレットがそうであるように。 |