読書日記(歌う石)
by 鈴木 宏枝
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歌う石(うたういし)
原題The Singing Stone読んだ日2001.7.16
著者O.R.Melling(O.R.メリング)訳者井辻朱美画家(N/A)
出版社講談社出版年月日1995.12.15原作出版年1986
感想 『妖精王の月』も、ユニークなプロットだったけれど、こちらもすごい広がりを見せる物語で、最後に明かされるケイの真実にはびっくりしてしまった。紀元前1500年のアイルランドを舞台にして、土地が一つの部族から次の部族のものになるまでのドラマを…まさにドラマを描いている。伝説という名の史実に書いてあることはそっけなくても、歴史の流れはとどめようがなく、結果は決まっていることでも、そこに至るまでに、個人の運命が交錯し、決断を下すときがあり、クエストがなされるのだ。
 主人公のケイが、自分の力をコントロールし、善き魔術師になる過程もおもしろかったし、アエーンの数奇な運命も興味深い。そしてそれをすべて見守っていたフィンタン・トゥアン・マック・ケーレルのまなざしや、歌う石に満ちるパワーの描写など、読みどころも多かった。ただ、途中までは、ゲーディル族、フィルボルク族、フォルモール族などが入り乱れて、適宜、登場人物による解説がなければ混乱してしまったかもしれない。多少分からなくなっても、読み進めていくとまた分かってくるのだけど。
 なるほど、人間と女神が結婚するのだから、アイルランドには「不思議」が堆積していて当然である。また、アイルランドなどというよりも、やっぱり「イニスフェイル」の方がしっくりくるよう。
 魔術や幻視、精霊との交わりなど、成り立ちを考えれば当たり前かもしれないが、土地土地のネイティブたちの共通する文化を感じた。賢者のタペストリのイメージは、好みである。巨石遺跡への作家のイマジネーションは、かっこいいなあ。


鈴木 宏枝
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