読書日記(十三歳の夏)
by 鈴木 宏枝
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十三歳の夏(じゅうさんさいのなつ)
原題(N/A)読んだ日2001.5.17
著者乙骨淑子(おつこつとしこ)訳者(N/A)画家(N/A)
出版社あかね書房出版年月日1974.12.25原作出版年(N/A)
感想 設定されている時期はいつ頃だろう?根津のあたりに三軒長屋があって、一方では、鎌倉の女中さん付きお屋敷が健在だったりする。そのレトロ?と特定の地域の描写(鎌倉、小岩、根津)にもひかれた。
 利恵のみずみずしさにびっくり。積読の中から抜き取って一番初めの「花火は、一瞬に消えてはいないよ。ほら、よくみてごらん。ひらいたたまの白いあとが、夜空にくっきりと、残っているじゃないか−−」を見た瞬間、読もうと決めた。
 自分がありのままの自分でいられる、お八重おばさんやお父さんや小岩の近所の人たちとの暮らしではなく、自分をモノのように見る鎌倉のおばさんのところで暮らそうと思う利恵。あちらの暮らしとこちらの暮らしの両方で、自分らしさを失わず軽やかに生きようとする利恵が、純粋にまぶしかった。暗いトーンがまったくなくて、めげない明るさや、作者のいやみのない言葉も、今でも十分おもしろい清冽さだと思う。ふくらみはじめる胸をいのちの一回性とつなげる気持ち。電車の中の母息子の心の通い合いに涙すること(というとお涙頂戴っぽいけど、全然そんなことはない。利恵の目が切り取った「一瞬」が、利恵に作用し返しているのだ)。香を焚いてから「さあどうぞ」とおならを促すユーモア。さぶにいちゃんへの淡い思いも、全部ひっくるめて十三歳なのだと思う。


鈴木 宏枝
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