読書日記(緋色の皇女アンナ)
by 鈴木 宏枝
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緋色の皇女アンナ(ひいろのこうじょあんな)
原題Anna of Byzantium読んだ日2001.5.11
著者Tracy Barrett(トレーシー・バレット)訳者山内智恵子画家(N/A)
出版社徳間書店出版年月日2001原作出版年1999
感想 オスマン・トルコに滅ぼされるまで10世紀も栄えたビザンチン帝国(東ローマ帝国)の皇女アンナの数奇な運命の物語。オスマンに滅ぼされることを考えると、アルメニアやトルコのことを異教の田舎者とばかにしきっているのに、何度も討伐の戦争を繰り返さねばならない中央の意識は、はかなくも感じられる。(もちろん、ソフィアとの友情は、現代から見たマジョリティ−マイノリティが伏線になっている)
 そもそもが大河ドラマ的であり、映画のよう。特に、宮廷の権謀術数の黒幕になるおばあさんのアンナ・ダラセナは、かなり強烈で、禿頭がさらされる場面では、何だろう、時代も国もお城の作りも違うけど、映画『エリザベス』での、陰影濃い宮中が浮かんだ。どこにでも隠れて立ち聞きしたり、落とし入れようとしあったり、いかにもである。また、血筋へのこだわりがあるとはいえ、一番怖かったのは、嫁姑の丁々発止。
 とにかく気位の高い、そしてそれが魅力になり仇にもなるアンナには、実はあまり肩入れできなくて、影の薄いマリアや、アンナを慈しんでいた宦官の教師シモン、結局戦争に行ってばかりで、真相を見抜く力のなかった(それでもアンナと妹のマリアは思慕していた)お父さんの皇帝や、狂ってしまったお母さんなど、アンナの周辺の方がむしろ、人間の様々を見せてくれると思った。アンナにはむしろ、歴史研究家としての作者の意識が投影されている。
 この中では悪役に描かれている猿顔のヨハネスは、実は伊達ではなく、即位するとアンナ・ダラセナを遠ざけ、善政をしいて「うるわしのヨハネス」と呼ばれたらしい。アンナが即位して、国が天下泰平になったかというifはないが、そうだとしても、臣民のために、歴史はこういう筋書きを用意したんだな。ヨハネスには、アンナが書いた「真実」は、どう見えていたのだろう?
 おもしろかったのだけど、むしろ、私は、似たような試みで、日本の作品が読みたいなあと思った。平安時代は、たぶん、アンナ・ダラセナのような形でしか女は政治には参加できなかったと思うけど、意外に、皇女アンナよりもおもしろい話が隠れていたりするのかも。あるいは、江戸時代とか。


鈴木 宏枝
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