読書日記(肩胛骨は翼のなごり)
by 鈴木 宏枝
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肩胛骨は翼のなごり(けんこうこつはつばさのなごり)
原題Skellig読んだ日2001.2.23
著者David Almond(ディヴィッド・アーモンド)訳者山田順子画家(N/A)
出版社東京創元社出版年月日2000.9.25原作出版年1998
感想 ほんとうに静謐で、詩情があり、ブレイクの引用どおりの想像力の世界と、少年の世界とのバランスとかかわりあいが絶妙だった。ロマン主義の系譜も、悪くないではないか。
 生臭い息を吐く、動物に近い、鳥に近い、翼をもつ男スケリグが、リウマチに冒され瀕死で横たわっているガレージのある家。その家にマイケルの一家は引っ越してきたのだが、家は廃屋同然。それを修理して住むというのはいかにもイギリス的な思い入れだろう。マイケルはスケリグを見つけ、そして、アオバエを食べて生きのびている、不潔な悪臭を放つ、その「天使」にごく自然に手を差し伸べる。最初の一歩は、ごく軽々と。
 マイケルにはあかちゃんの妹がいるが、彼女にはまだ名前も付けられていない…このあたりの家族の感情はマクラクランのBabyとの重なりを感じた。彼女は心臓の病気と必死に戦っていて生死の境にいる。もちろん、それが家族みんなの一番の心配事で、マイケルもまた不安定な気持ちだ。
 マイケルの隣家に住む<学校に行かずに学んでいる>少女ミナは鳥に詳しい。そして、ありのままのスケリグを、マイケルが受け入れたのと同じように受け入れる。三人のダンスのシーンは、静かな圧巻であり、自分の背中の肩胛骨もうずくような錯覚を覚えた。また、自分の知っている様々な裸の背中を思い出した。
 それから、予想通り、あかちゃんのところでスケリグがダンスをするシーン。マイケルに助けられ、ミナの手をとり、ミナの案内した空家でフクロウと心を通わせ(たであろう)スケリグは、飛び去る前に願いをかなえてくれた。あかちゃんのちっちゃな炎の心臓、という言い回しも印象的だし、そこでいのちを得たあかちゃんに「ジョイ」という名前が付けられるまでの、物語の一本の線は心地よい流れだった。
 しみじみといい作品だと思う。外では雪の降る静かな夜にぴったりのファンタジーだった。  


鈴木 宏枝
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