読書日記(ミカ!)
by 鈴木 宏枝
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ミカ!(みか!)
原題(N/A)読んだ日2001.2.9
著者伊藤たかみ(いとうたかみ)訳者(N/A)画家(N/A)
出版社理論社出版年月日1999.11原作出版年(N/A)
感想 切れのいい文体に関西弁も心地よいのに、最初はなかなか進まなかった。が、途中から加速がついて結局「おもしろかった」。小6のミカコ(ミカ)とユウスケの双子のきょうだいが主人公で、両親は別居中。姉のアケミはミカや父親とそりが合わずに、やがて母親の家に行く。結局両親は離婚するが、家庭内の問題がそれほどクローズアップされているわけではない。おそらくは母親の不在を浮かび上がらせ、俗な意味での女性性を担ったアケミとミカを対照するための装置だろう。
 ミカが見つけたオトトイという不思議なモグラのような生き物(ちょっと岡田淳も思い出した)は、団地の軒下に住んでいて、すっぱいものを食べて大きくなる。悲しみのすっぱい涙が背中にこぼれると、オトトイは大きくなり、泣いた私は晴れやかになる。この動物の象徴性がけっこう大きいかも。物語の最後でユウスケが未来の自分にわくわくした気持ちを叫んで「あさってのぼく」というとき、時間の流れとその対比が鮮やかになる。そこにいやみがないのがいい。
 生理も胸が大きくなることも受け止めがたかったミカの気持ちに同化する子もいれば、そうでない子もいるだろう。ほんとにミカがペチャパイのまま生理も人より遅かったりしたら、また違った展開になるのだろうな。ここで、フィジカルな意味での女らしさを約束された活発な元オトコオンナというのは、ほんとに前途洋洋で(^^;一種の理想像にも見えてくる。結局ミカは泣き虫だし、「かわいい女」なのである。ミカを心配するユウスケというナイトもいるし(ボケ役だけど、ボケ役ゆえに)、告白が失敗しても「おれかっこわる」と言って友だちづきあいできるコウジもイイヤツだものね。
 学校行事で行くキャンプの昂揚感、泥水に顔をつっこんでオトトイを探す二人の切羽詰った様子、コウジが自分に挨拶しないで帰ったことに理不尽に憤るミカ、などが印象的。いくつかあった作者の声も悪くなかった。「誰にでも幸せになる権利があるし、みんなどんどん幸せになっていくんだ」それが言いたいことなのだろう。そしてその影で消えていったオトトイがやはり、もうひとつの物語を担っている。


鈴木 宏枝
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