読書日記(バラの構図)
by 鈴木 宏枝
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バラの構図(ばらのこうず)
原題(N/A)読んだ日2000.12.13
著者K.M.Peyton(ペイトン)訳者掛川恭子画家(N/A)
出版社岩波書店出版年月日1974.12.6原作出版年1972
感想 Flambardsでもそうだったように、ペイトンの意識は「時代」にあると思う。『バラの構図』は、1910年に死んだ小作人の貧しい少年トム・インスキップの暮らしと、広告会社を経営する父親を持ち、最高の教育を受け(しかも成績優秀)ながら、親の敷いたレールの通りに生きるのはイヤだと反発する(だけど、なかなかそれをうまく表現できない)少年ティム・イングラムの暮らしが交錯した物語だ。二人をつなぐのは頭文字と絵の才能(でも、卓越した芸術的才能というわけではなく、趣味の程度か?)。新しく越してきた田舎風邸宅の暖炉の中に隠されていたトムの絵と、牧師館にあった享年16歳のトムの墓石を偶然見つけたティムが、トムの死の謎を探りつつ、自分の生き方を見つめていくまで。
 トムとネティの身分差、ほのかな恋心、単調な労働者暮らし。物語を読者にはそれが分かるけれど、ティムは「本当はトムに何が起き、トムはそのときどう思っていたのか」を知ることはない。トムとティムを並べると、「ティムのためのトム」というのがはっきりしているのだけど、私はむしろ、トムの物語はそのものだけで読みたかったような気がする。ティムは結局、自分の将来の道をわりといい方に決めていき、希望的な兆しで終わるのだが、やはり、この物語の中枢にあるべきは、坊っちゃんの悩み多き将来像ではなく、1910年というまだまだ封建的な時代に生き、切なく悲しく死んだトムなのではないか。ネティが人が変わったようにマジメになって従軍看護婦になったというのも、ハテ。私は、誰かの人生を変えるための媒体ではない、そのままのトムの物語と、随所に繰り返される「バラ」のパターンに深さを感じたい。


鈴木 宏枝
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