みねこさんの読書日記(川の上で)
by みねこ
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川の上で(かわのうえで)
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原題 | AUF DEM STROM | 読んだ日 | 2001.5.17 | ||
著者 | Hermann Schulz(ヘルマン・シュルツ) | 訳者 | 渡辺広佐(わたなべひろすけ) | 画家 | (N/A) |
出版社 | 徳間書店 | 出版年月日 | 2001.4.30 | 原作出版年 | 1998 |
感想 | 1930年代の東アフリカの奥地で妻子を伴い布教を続けてきたドイツ人宣教師と娘の話。 プロテスタントの宣教師であるフリートリヒ・ガンゼは長くこの地で布教活動を続けているが、まだ誰にも洗礼を施したことはない。宣教師としての使命感にかたくななまでに忠実なフリートリヒはそれ故自らを卑小な者と思い、 アフリカ独自の知恵による呪術など「肉体と魂にかける魔法」と敵対視していた。 ところがある事件をきっかけに旧知の友である部族の王であるウジムビに助けを求められ、出かけた帰途、長雨に足止めをくらっている間に具合の悪かった妻子の容態は急変。伝道所に戻った時には妻は帰らぬ人となっていた。娘も瀕死の重病人となって横たわっている。そして室内には村の呪術師がいて「小舟を使って、川を下るといい。」と指示する。娘を助けたい一心で妻の埋葬もまかせて出発するフリートリヒ。 舟で川をくだり、夜毎言葉も通じない川辺の村の人々に手厚く迎えられ娘に施される呪術に対する抵抗感も次第に薄れ、顔面蒼白で意識のまったくなかった娘が回復していくのを目の当たりにしてフリートリヒの心の中にもある変化が訪れる。父は娘にそれまでは話したことのなかった、子どもの頃のことを舟を繰りながら 語り続けた。貧しい農夫だった父との暖かい思い出。子どものころ果たせなかった自分の馬を持つという夢を父親に砕かれ出奔する顛末。 最後に宿を求めた村で英語を完璧に話すアフリカ人女性は「川の上で話をしてあげたことがよかったのです。(中略)たぶん娘さんがひとりぼっちではなかったことがだいじなところだったのでしょう。」と言い、フリートリヒが消えかかった炎に、たっぷりの愛と、命の炎をふたたび燃えあがらせるための好奇心と、守る手を与え、命をつなぎとめたのであろうと伝えます。「人はときには、自分のことだけを考え、愛してくれる人が必要になるものなのです。」と。 ここのところ、物語のもつ力、物語を求める根元、ただ親と子で”いる”だけでなく、親と子に”なる”親と子で”ありつづける”ために親は?そして子は?と揺さぶられつつ考えてしまった。 その他歴史的背景や異文化との摩擦、出会い、同化などが凝縮された濃密な本でした。 |